さて、ふりかえっておこう。
前章でわたしたちはこの二つのグループを
このようにペアリングし、それらをアダマール積により乗じることで四種の〝アダマール行列〟を得るという謎の事態に遭遇した。
はたしてこれは偶然の産物なのか?
たまたま、わたしたちが選んだペアリングの仕方が絶妙だったからなのか?
どうもそうとも言い切れないようである。
たとえば、二つのグループ間におけるペアをこのように変更してみることにしよう。
じつに単純明快。自分自身とその90度回転体を組ませるのである。このようなペアもまたアダマール積により〝アダマール行列〟を産みだすとしたら?
まさか。
そんなうまい話があるわけがない。
どうだ…。
うまい話というのは、ころがっているところにはころがっているのである。
四つのペアは、アダマール積を用いることにより、手裏剣のような形をした正負反転模様を浮かび上がらせる。
これら四種の形状の絶妙なところは、これらの転置行列もまた四種の形状内にとどまるということである。
さらにもまして不思議なことは、四種の手裏剣柄格子体とその転置行列を行列積によりかけあわせると、
すべてがおなじ格子体を生成するという事実もさることながら、これらは以前のペアリングらが生成した格子体とも寸分たがわぬ姿をしている。
さよう。
これら手裏剣柄格子体もまた〝アダマール行列〟なのである。
さて〝アダマール行列〟とはなにか、ということについて少し説明しておこう。わたしたちがこれからしばらく扱うことになる四次のアダマール行列(4×4)は以下の等式を成立させる。
自身とその転置行列との積が、単位行列(4×4)のスカラー倍。
この関係を満たす格子体A(4×4)であれば、すべてアダマール行列の名に値する。
ちなみに四次の世界におけるアダマール行列の種類は、わたしたちが想像している以上に多くの数にのぼると思われる。そのことについては別の章で述べる予定である。
またこのようなアダマール行列の共通の性質として、たとえば格子体を〝行〟ごとにバラバラにし、
そこから任意の二つの〝行〟を選び、同じ位置にある格子同士の積をとり、それらをぜんぶ足しあわせたとき、かならず0消失を起こすというのがある。
いや、〝行〟だけではなく〝列〟においても同じことがいえる。
ぜひ、たしかめてみてほしい。
さて、アダマール行列について、通り一遍の知識を得たところで話をもとにもどそう。
これら二つのグループ間から選ばれたミックスペアの中には、ペア同士のアダマール積によりアダマール行列を産み出すものたちがいることをわたしたちは知った。
が、考えてみれば、ペアの取り方はほかにもいろいろあるはずだ。
すべてを網羅すると、
そうなのだ。
わたしたちはまだこれらの半分についてこころみたにすぎない。
乗りかかった船である。
わたしとしては残りの半分もきっちり調べ上げてやるつもりなのだが、諸君らはどう思う?