さて、3乗根体の分類を通して、わたしたちは一つの可能性を見出した。それはアダマール行列n乗根体と正負反転体❶~⓰型との奇妙な関係である。
もしや、3乗根体以外のn乗根体も正負反転体を介してグループ化ができるのではないか。
大それた思いつきだろうか?
トライしてみるだけの価値はある。
というわけで、今章から、ついにアダマール行列4乗根体の世界へと突入することになる。
待ってくれ。
4乗根体だと!?
初耳だぞ。
そもそもそんなものが存在するのか?
なるほど。
存在してくれなくては話にならない。
確認しておきたい。アダマール行列4乗根体とは、定義としてはアダマール行列(4×4)全768種の中で4乗してはじめて単位行列の整数倍のかたちをとるもの、のことである。
注意していただきたいのは4乗して〝はじめて〟という箇所。もし、この〝はじめて〟という制限をはずしてしまえば、アダマール行列2乗根体(対称行列)は、すべて4乗根体の中にまぎれこんでしまうことになる。たとえば、
※単位行列は何乗しても単位行列であることを思い出されたい。
つまり、アダマール行列n乗根体の世界では、「わたしは2乗根体であり、4乗根体でもある」という主張はなされないのである。個々のアダマール行列のアイデンティティーは一つ。このことは重ねて了承しておく必要がある。
ならば、これまでにわたしたちが特定した2乗根体(対称行列)全64種+3乗根体全96種は、この時点で除外が確定される。ということは、アダマール行列(4×4)全768種-(2乗根体(対称行列)全64種+3乗根体全96種)=608種、この中からお目当の4乗根体を探しだせばよいことになる。
どうやって探しあてるか?
簡単である。ただ、シラミつぶしにやるのみ。
が、諸君らもそれほど暇ではなかろうから、わたしが代わりにやっておいた。
さっそくだが、これを見てほしい。
なんと、全96種。
ぴったり3乗根体の総数と同じではないか!?
いや、安心するのはまだ早い。
じつは、これとは別に、もう1セットが存在している。
どうだろう。3乗根体の世界と同様、4乗根体の世界もまた(+)と(-)の極性があることがたしかめられるのだ。
しかも両極間で個数的に完全にパワーバランスがとれている事実も3乗根体の世界と共通しているようである。
※アダマール行列n乗根体の世界で(+)と(-)の個数が同数づつあらわれることは一見すると当たり前のように映るが、けっしてそんなことはない。2乗根体の世界ではすべてが(+)に統一されていたことを思い出されたい。また6乗根体の世界ではさらに説明のつかない事態が起こっていることが後に判明することになる。