この章では、ふたたび正負反転体を扱うことにする。
さて、わたしたちは、過去の章にて、準–正負反転体とその90度回転体のアダマール積をこころみ、そこから思いもかけない収穫を得たのであった。
では、同じことを正負反転体に対して行うとどうなるか?
アダマール積という新たな演算を手に入れ、それを使って遊びたい盛りのわたしたちである。自然、そのようなアイデアが浮かぶことであろう。
たとえば、マリス/タリス型でもある正負反転体❷型とその90度回転体とのアダマール積とってみよう。
あらわれたのは、オールワン格子体。
が、この単色からなる格子体は、正負反転体基準❶型とも解釈できる。
あるいは、❸型❹型においても、
さよう。ここでもアダマール積生成格子体は、一色に染まる。
正負を度外視し、柄にのみ着目すれば、これも基準❶型と同タイプ。
だからどうした、と?
別の正負反転体でこころみよう。
これらは、どちらもマリス/タリス型、つまり正負反転体❷型を生成。
他にもしらべてみれば、次のような事例が続々と見つかる。
ひょっとして?
正負反転体❷型とその90度回転体とのアダマール積生成格子体は、正負反転体のいずれかの型にとどまる?
この領域には、なにかある。
いやがおうでも、そう感じざるをえない状況である。
ということで。
今回は正負反転体とアダマール積の関係について徹底的に調査してみることにした。
※注意。ここでは従来の正負反転柄に若干のアレンジがくわえられている。なにをどう変えたのか。すべての左上隅=1となるようにそろえたのである。
なぜ、このような修正をするのかというと、この方が結果をきれいに見せることができるからだ。まあ、いまはわからなくてけっこう。
まずは基準❶型から。
これはやらずもがな、なのであるが念のため、次の事実を確認しておく。
基準❶型はいってみれば、正負反転体の世界では1に相当する。
1×A=A。理解いただけよう。
準備体操を終えたところで本格的にはじめたい。
取り上げるのは、これら三つの型。
ちなみにこれらは、いずれも対称行列。
はたして、これらを主役として他のあらゆる正負反転体と総当たり的にアダマール積によって関与させたとき、なにが起こるのか? 一つ一つ、じっくりと目をこらしていただきたい。
さよう。❷❸❹型のいずれをメインにしても、生成されるアダマール積生成格子体は、正負反転体❶~⓰内のうちのどれかを選ぶ。
対称行列ゆえになせるわざなのか?
❺❻型でやってみよう。
●正負反転体とアダマール積:❺❻型メイン
やはり、アダマール積生成格子体は正負反転体❶~⓰の範囲を飛び出すことがない。
❼❽型についてはどうだろう。
●正負反転体とアダマール積:❼❽型メイン
うまくできている。ある正負反転体は、ある正負反転体とある正負反転体のアダマール積によって構成することができる。このお互いにお互いを生みだすことができるというシステムは正負反転体世界全体に浸透しているようだ。
●正負反転体とアダマール積:❾❿型メイン
●正負反転体とアダマール積:⓫⓬型メイン
●正負反転体とアダマール積:⓭⓮型メイン
●正負反転体とアダマール積:⓯⓰型メイン
例外は一つもなかった。正負反転体の世界は、アダマール積という演算についてクローズドされており、そこに外来からの不純物が入りこむ余地はない。
自分たちだけで自給自足できる世界。
もしその世界を積表であらわすとするなら、
どうだろう。
冷たくも硬質な輝きを放ち、わたしたちを見つめ返している。
まだまだ多くの秘密をかくしているにちがいない。
目をそらさずに、直視されたい。